なにを着ていけば一番素敵に見える?

2011.05.06

高校一年の時、四つ年上の大学生のボーイフレンドがいた。ステディな恋人というわけではなかったが、彼と会う時、なにを着ていけばいいのか、私はいつも悩むのだった。ロックをやっている彼は、世田谷近辺のロック好き少年の間では知られた存在だった。「ギターが天才的にうまい」と誰もが言った。そんなものかなと思ってはいたが、すでにプロとして活躍している音楽仲間や、グルーピーの女の子たちに取り巻かれている彼の住む世界は、中学生に毛の生えた程度の子供には、驚くほど新鮮に見えた。彼から気まぐれに「会おうよ」と電話がかかる。週末にそんな電話をもらうと、嬉しくなってすぐ彼の住む隣の駅まで私は飛んでいきたくなった。しかし、嬉しい反面、苦しい気持ちもあった。なにを着ていけば一番素敵に見えるのかがわからない。そのことが心を重くした。彼はロックをする人らしく、肩までの長い髪をして、細身のコーデュロイのパンツに膝までのブーツ、それにイギリス風のウエストを絞ったベルベットのチェスターフィールド・コートといった格好が得意だった。